お笑いの分析・考察(by やましたゆうと)

お笑いの技術考。事務所無所属。お問合わせ:yamashitayuto.octopus@gmail.com

M1決勝2020 ネタ分析「マヂカルラブリー」1本目

 

M1決勝のネタ分析です。
今回は、マヂカルラブリー1本目のネタについてです。

この文章は、YouTubeに上がっている先日のM1の漫才の映像を見ながら読むと、よく理解できるようになっています。それでは、マヂカルラブリー1本目のネタの台本構成要素をボケを中心に列挙し、分析してみます。


マヂカルラブリー

漫才スタイル:フレンチマナー漫才

出だし
どうしても笑わせたい人がいる男です。

--ネタ開始--

フリ:高級フレンチに行くことになった。でもマナーを知らないから教えてほしい。

(フレンチレストランのマナー説明)+ 食事終了時のマナーの認識

(シミュレーション開始)

ボケ1:

震えて動く謎の動きから入店
→シェフを指さして探す動き
→シェフの心臓らしきものを手に持ち数秒経った後に潰す
+マナーどおりの”終わり”

ボケ2:

木を切る
→木でドアを思いっきりどつく
→シェフを探す動き
+丸太をマナーどおり置いて”終わり”

ボケ3:

静かな入り
→静かな入店
→静かにシェフを探す動き
→静かにシェフの心臓らしきものを手に持ち潰す
+マナーどおりの”終わり”

ボケ4:

方陣を描く
→指を噛み血を垂らす
→デーモンのような「でもん」を召喚
→でもんがフレンチを求める
→俺ん家に到着(わかりやすく小ボケる)
→「でもん」と言いながら間違っちゃったという顔をする
+(数秒を間を置き)マナーどおりの”終わり”

--ネタ終了--


分析:
全体としては、意外性が大いにあるボケにダイナミックな動きを入れ爆笑をさらった。
まず出だしでは、2017年M1決勝の上沼恵美子さんとのやりとりをフリとした、野田クリスタルの「どうしても笑わせたい人がいる男です。」というボケをつかみとしてネタに入った。そもそもネタの出だし以前に、せり上がりの登場シーンから上沼恵美子さんを意識した正座ポーズから入って来たところが、もう既に物語性のあるボケとなっていた。
ネタ本体では、まずフリとして、村上が高級フレンチレストランでのマナーの説明を行い、野田がそれを理解する事から入った。
「じゃあちょっとシミュレーションしてみる」という合図から、一気に大きく震えながら入店シーンをシミュレーションし始めたことにより、高級フレンチという品格のあるシーンから、いきなりとてもほど遠い動きをし始めたため、その温度差も大きく、出だしから大爆笑という展開となった。
また、このボケが際立っていた際に、このおかしい動きに対する「違うよ」というツッコミを連続で発していたことも、この時の大爆笑をさらに引き立てるものであった。
マナーの“食べ終わり”の食器の揃え方を、ふざけたボケの“終わり”に揃えたところが、それぞれのボケに統一感があり面白かった。
後半尻すぼみという点はあっただろうが、出だしのインパクトがとても強く、「面白かった」という印象が強く残る漫才であった。


会場の
大きい笑いの回数:18
中の笑いの回数:15
小さい笑いの回数:3
笑いの量合計:5
最大瞬間風速:ボケ1の一連の流れ
声の大きさ:4
M1審査員の点数:649

 

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【お笑い】『サンキュータツオの芸人の因数分解 GetNavi特別編集』サンキュータツオ 著の書評

サンキュータツオの芸人の因数分解 GetNavi特別編集

 この本は、私のお笑い分析の第一歩となる本であった。

本の中身は、芸人でもあり研究者である著者のサンキュータツオ氏が、芸人的な目線でのネタの分析と、研究者としての、学術的見地からの分析が書かれている。

中身は漫画での絵と、○○風ネタといことで、実際その芸人のネタによく似たネタが書かれており、ネタの構造が分かりやすく表されている。

取り上げられている芸人は2020年の今では少し古い気はするが、ネタ構造の分析という意味では、普遍的なものが表されている。

どちらかというと学術的というよりは、ネタの仕組みが分かるものとなっている。

この本のネタの特徴の書き方は簡潔かつ特徴の身を表しているので、非常にわかりやすいものであり、私の既刊書『お笑い分析 中級』では、芸人分析の際にこの本を大いに参考にさせて頂いている。

グライスの関係性の公理など、アカデミックなワードも入っており、そういった点は学術的な見方への足掛かりとなりそうだ。

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【お笑い】『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』ラリー遠田 著の書評

とんねるずと『めちゃイケ』の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論 (イースト新書)

 この本は、お笑いライターであり過去にはテレビ制作会社で働いていたラリー遠田氏が書いたものである。

全体の感想としては、やはりなるほどと思う。

業界関係者であるお笑いライターならではの視点。内容構成としては、時代の流れに沿って、古くからあるバラエティ番組から分析していく流れだ。

第一章「なぜ、『みなさん』『めちゃイケ』の時代は終わったのか」と第二章「なぜ、フジテレビは低迷しているのか」では、フジテレビと日本テレビなどの比較から、王道バラエティの凋落の理由が納得できる形で述べられている。

日本の景気動向や時代の移り変わりに合わせてということなのだろうが、私としては、めちゃイケは特に好きだったため、無くなったのは残念だし、今でも復活してもらいたいと思っている。

また、めちゃイケのような番組が終わったからといって、それを上回るような番組が出てきているようには思えない。

また、本書全体を通して考えても、フジテレビのバラエティが時代に合わなくなったというのかもしれないが、YouTuberの「東海オンエア」など、王道バラエティを真似したような動画がマスに受けているということからも、フジテレビは王道バラエティを復活させた方がいいのではないかと考えるに至る内容であった。

第三章以降では、現在のトレンドを分析している。第五章「なぜ、視聴者は有吉とマツコから目を離せないのか」では、マツコ・デラックス有吉弘行がなぜ受けているのかの解説が書かれている。

マツコさんや有吉さんは、現在の視聴者目線のままテレビに出ているというのところにとても共感できる。

私としては、マツコさんや有吉さんが売れている理由は、多くの人の本音を割とテレビで言ってくれるからだろうと思う。

この著書の読後感としては、新たな発見と納得感を感じられる。私がただ面白く見ていためちゃイケを、この著書を読み「ドキュメンタリー形式」だと初めて理解したというのも含め、平成のバラエティ番組が好きだった読者にこの著書の一読をおススメする。

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【お笑い】『「笑い」の解剖:経済学者が解く50の疑問』中島隆信 著の書評

「笑い」の解剖:経済学者が解く50の疑問中島 隆信

 この本は、慶應大学の経済学者が書いた「笑い」を分析した本である。

「笑い」に関する学術書の中では最も見やすく、わかりやすい内容であろう。

私は、他の本を読んでいても、「本当だろうか?」と疑問に思っていた部分も、この本では解決した。

「笑い」に関する諸説を取り上げ、それが上手にまとまっており、今までのもろもろの理論の中から、妥当そうなものを理解できる。

また、以前に取り上げた、小林亮『科学で読み解く笑いの方程式』上下巻(欲求神経学研究センター、2018年)と一緒に読むことで、よりアカデミックに「笑い」の発生の仕組みを理解できるでしょう。

また、「笑い」が健康に役立つのかといった疑問にも答えており、笑える状態についても書かれている。

全体の構成としては、「笑い」の発生の理論を研究した部分、身近な笑い、笑いのビジネスの総論、落語、漫才とコント、その他ものまねや、笑いと健康についてと、多岐にわたり網羅的に「笑い」に関して述べられており、本書を読めば、「笑い」について一望できる。

 

「笑い」の解剖:経済学者が解く50の疑問中島 隆信

「笑い」の解剖:経済学者が解く50の疑問中島 隆信

  • 作者:中島 隆信
  • 発売日: 2019/09/06
  • メディア: 単行本

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【お笑い】『お前なんかもう死んでいる プロ一発屋に学ぶ50の法則』有吉弘行 著の書評

お前なんかもう死んでいる プロ一発屋に学ぶ50の法則

 この本は、今や司会者となった人気芸人、有吉弘行さんの書いた本だが、苦しい時に参考になる本である。

私は辛い時期に参考になり、心が一旦軽くなった。

内容構成としては、「栄光からの転落」の法則、「どん底生活」の法則、「地獄で発見」の法則、「プロ一発屋」の法則、「現代人へ贈る」法則という、全部で50の「法則」という形の構成である。

これは、有吉さんのブームとなった時の生活から売れない時期を経て、復活の時系列に、逐一法則を載せたものである。

みんな辛い時期はある。辛い時期には、人の辛い話を聞いても直らないばかりか、人の辛い時の話まで追加で聞きたくなんかないかもしれない。

しかし、この有吉さんの文章は、何かそんなどん底にいる時に希望が持てる文章だ。

どん底生活からの地獄で見えてきたものとしての、「「逃げ道」を作っておくのって大事ですよね」や小見出しの「努力なんかしても無駄なときに努力しようとするヤツは馬鹿だ!!」の項が特に参考になる。

そこには、「努力するなら、仕事があるうちになんとかしといたほうがいいと思います。」とあるが、これに関しては、私の実体験からも言える。

仕事での努力を見せる機会もなければ、なかなか努力・辛さが報われない。

今、この書評を書く際に、有吉さんのどん底生活を読み返すと心が少し辛くなったが、しかし今の画面越しでのイキイキしている有吉さんを見ればそんな気分も吹き飛ぶ。

そんな「地獄」からの、後の章にあるような学んだ教訓は読者に刺さる。

後に上手くいったからこそ、有吉さんの著書になっているのだろうが、他の芸人の著書でもあるように、苦しい時を超えると、誰にもいい時期が待っているのかもしれない。