お笑いの分析・考察(by やましたゆうと)

お笑いの技術考。事務所無所属。お問合わせ:yamashitayuto.octopus@gmail.com

【お笑い】エガちゃんねるコラボ「567↑8」のお笑い分析

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今回は、深夜でのエガちゃんねるとのコラボの新しいチャレンジ的番組「567↑8」のお笑い分析をしてみようと思います。この「567↑8」はTVerで見逃し配信をやってます(有効期限不明)。

この番組の基本として、①エガちゃんねるとのコラボ、②片岡飛鳥監修、③新しいチャレンジ要素 の三本柱から成り立っています。

また、この番組は、江頭2:50という過去の「めちゃイケ」と現在の「エガちゃんねる」という過去と現在の人気者をキーパーソンとして、その「めちゃイケ」の総プロデューサーであった片岡飛鳥氏が企画構成し、これからの若手芸人や新しいお笑い要素を加えたことで、「慣れ」と「新しさ」という『ヒットの設計図――ポケモンGOからトランプ現象まで』デレク・トンプソン著 https://amzn.to/3m3vsx2 にもある「ヒットの要素」がまさしく入っている。

私は、この番組に久し振りにワクワクした。

めちゃイケ」の総監督であった片岡飛鳥氏が久し振りに取り組んだ「めちゃイケ」的お笑いコンテンツであったからだ。

 

番組内容を振り返ってみる。

かまいたち嘘テレビ
・無声お笑いGP
・3時福田ツッコミショー
・スノーマン新境地
劇団ひとりVS新人D
・俳優山田孝之乱入

かまいたち嘘テレビ

こちらのコーナーは、相席食堂をパクッたスタジオセットにMCをかまいたちが担ったコーナーである。バラエティでのウソが許されなくなってきたこのご時世に、あえて全て「ウソ」という前提でのVTR構成で、何人かの出演者が登場するが、全て「ウソ」という設定なのに、ところどころ「これ本当なのでは?」と思える節が見え隠れするのが面白い。かまいたちがちょいちょいツッコミを入れることで上手くまとまっている。個人的にはこじるりのVTRがおすすめだ。

・無声お笑いGP

こちらは、コロナ禍の今に合わせた、音声ゼロの無声でのお笑いGPだ。M1の形式をただパクッた無声お笑いでなく、審査員含めボケが多く仕掛けてある。出演芸人を見れば、声を出していなくとも声を出した状態をすぐにイメージできるため、そのシュールさが面白い。

・3時福田ツッコミショー

こちらは、3時のヒロイン福田をメインとした、記者会見方式のコーナー。トリオの芸人としては、あまり目立たない福田に焦点を当て、その容姿をイジるというルッキズムに反するネタ。

・スノーマン新境地

こちらも、ルッキズムに逆らうような、イケメンとは何かを問うようなコーナー。このVTRを見れば、あなたもイケメンの概念が覆るかもしれない。いやそれはない。

劇団ひとりVS新人D

こちらは、どこか狂気の漂う劇団ひとりという芸人に、新人スタッフや若手アナウンサーをぶつけたコーナーである。ほぼ新卒の若手を劇団ひとりにぶつけたところから、そこに新たな「緊張」が生まれており、それが笑いにつながっていた。

・俳優山田孝之乱入

全てのコーナーが終わった最後に、山田孝之がブリーフ団の格好をして紛れてきて、それを知らずの江頭にキックされるという、江頭への番組最後のドッキリである。


各コーナー全体を通して、フリからのオチで緊張と緩和が上手く作用するように作られているし、時代性もあり、何よりあの片岡飛鳥氏が企画構成したコンテンツであったため、「めちゃイケ」が好きだった人にとても好まれそうな内容であった。

 

 

M1決勝2020 ネタ分析「マヂカルラブリー」2本目

M1決勝のネタ分析です。
今回は、マヂカルラブリーの2本目のネタについてです。

この文章は、YouTubeに上がっている先日のM1の漫才の映像を見ながら読むと、よく理解できるようになっています。それでは、マヂカルラブリー2本目のネタの台本構成要素をボケを中心に列挙し、分析してみます。


マヂカルラブリー(2本目)

漫才スタイル:電車内漫才

 

出だし
マヂカルラブリーの村上です。
そのズッ友です。ズッ友でーす。

 

--ネタ開始--

フリ:吊革につかまりたくない。

(電車のシチュエーション開始)

ボケ1:
大きく揺れまくる。
→寝っ転がる。
→立ち上がってトイレに入る。
→大きく揺れ小便をまき散らす。
→寝っ転がる。

→揺れながらサンドイッチの車内販売が通過。
→寝っ転がった注文求める。
→お金をこぼしまくる。

→一度浮き上がって空中で止まる。
→すごく下からGがかかる。
→あと二回繰り返す

→吊革が取れやすい
→手すりには電流が流れている。

→空調は寒すぎる。

→電車は急停車。
→車内には人がたくさん倒れている。
→出ようとするとドアの開閉で顔が挟まる。

→停車駅のアナウンス「御茶ノ水御茶ノ水~」

中央線こんなんじゃねえよもういいよというツッコミ

--ネタ終了--

 

分析:
M1の決勝二本目という舞台で、喋りのボケに頼らず大方を電車内での動きボケのみで終わらせたという斬新なネタであった。ある意味これは決勝二本目だからこそ場を制す効果のあったネタであったと言えるだろう。年末年始のどこかの番組で、野田クリスタルさんが「吊革のネタを解説してるサイトとかあって、吊革ネタやるのが面白くなくなった」と言っていましたが、お笑いの解説サイトまで見ている人は、漫才ファンの中の一部の人だろうから、多くの人が見る年末年始のテレビで「吊革」ネタをやっても全然良かったと思います。

爆笑度5

 

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お笑い分析 上級 (ヤマシタブックス)
 

 

M1決勝2020 ネタ分析「マヂカルラブリー」1本目

 

M1決勝のネタ分析です。
今回は、マヂカルラブリー1本目のネタについてです。

この文章は、YouTubeに上がっている先日のM1の漫才の映像を見ながら読むと、よく理解できるようになっています。それでは、マヂカルラブリー1本目のネタの台本構成要素をボケを中心に列挙し、分析してみます。


マヂカルラブリー

漫才スタイル:フレンチマナー漫才

出だし
どうしても笑わせたい人がいる男です。

--ネタ開始--

フリ:高級フレンチに行くことになった。でもマナーを知らないから教えてほしい。

(フレンチレストランのマナー説明)+ 食事終了時のマナーの認識

(シミュレーション開始)

ボケ1:

震えて動く謎の動きから入店
→シェフを指さして探す動き
→シェフの心臓らしきものを手に持ち数秒経った後に潰す
+マナーどおりの”終わり”

ボケ2:

木を切る
→木でドアを思いっきりどつく
→シェフを探す動き
+丸太をマナーどおり置いて”終わり”

ボケ3:

静かな入り
→静かな入店
→静かにシェフを探す動き
→静かにシェフの心臓らしきものを手に持ち潰す
+マナーどおりの”終わり”

ボケ4:

方陣を描く
→指を噛み血を垂らす
→デーモンのような「でもん」を召喚
→でもんがフレンチを求める
→俺ん家に到着(わかりやすく小ボケる)
→「でもん」と言いながら間違っちゃったという顔をする
+(数秒を間を置き)マナーどおりの”終わり”

--ネタ終了--


分析:
全体としては、意外性が大いにあるボケにダイナミックな動きを入れ爆笑をさらった。
まず出だしでは、2017年M1決勝の上沼恵美子さんとのやりとりをフリとした、野田クリスタルの「どうしても笑わせたい人がいる男です。」というボケをつかみとしてネタに入った。そもそもネタの出だし以前に、せり上がりの登場シーンから上沼恵美子さんを意識した正座ポーズから入って来たところが、もう既に物語性のあるボケとなっていた。
ネタ本体では、まずフリとして、村上が高級フレンチレストランでのマナーの説明を行い、野田がそれを理解する事から入った。
「じゃあちょっとシミュレーションしてみる」という合図から、一気に大きく震えながら入店シーンをシミュレーションし始めたことにより、高級フレンチという品格のあるシーンから、いきなりとてもほど遠い動きをし始めたため、その温度差も大きく、出だしから大爆笑という展開となった。
また、このボケが際立っていた際に、このおかしい動きに対する「違うよ」というツッコミを連続で発していたことも、この時の大爆笑をさらに引き立てるものであった。
マナーの“食べ終わり”の食器の揃え方を、ふざけたボケの“終わり”に揃えたところが、それぞれのボケに統一感があり面白かった。
後半尻すぼみという点はあっただろうが、出だしのインパクトがとても強く、「面白かった」という印象が強く残る漫才であった。


会場の
大きい笑いの回数:18
中の笑いの回数:15
小さい笑いの回数:3
笑いの量合計:5
最大瞬間風速:ボケ1の一連の流れ
声の大きさ:4
M1審査員の点数:649

 

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【お笑い】『サンキュータツオの芸人の因数分解 GetNavi特別編集』サンキュータツオ 著の書評

サンキュータツオの芸人の因数分解 GetNavi特別編集

 この本は、私のお笑い分析の第一歩となる本であった。

本の中身は、芸人でもあり研究者である著者のサンキュータツオ氏が、芸人的な目線でのネタの分析と、研究者としての、学術的見地からの分析が書かれている。

中身は漫画での絵と、○○風ネタといことで、実際その芸人のネタによく似たネタが書かれており、ネタの構造が分かりやすく表されている。

取り上げられている芸人は2020年の今では少し古い気はするが、ネタ構造の分析という意味では、普遍的なものが表されている。

どちらかというと学術的というよりは、ネタの仕組みが分かるものとなっている。

この本のネタの特徴の書き方は簡潔かつ特徴の身を表しているので、非常にわかりやすいものであり、私の既刊書『お笑い分析 中級』では、芸人分析の際にこの本を大いに参考にさせて頂いている。

グライスの関係性の公理など、アカデミックなワードも入っており、そういった点は学術的な見方への足掛かりとなりそうだ。

私の本はこちら↓

 

【お笑い】『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』ラリー遠田 著の書評

とんねるずと『めちゃイケ』の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論 (イースト新書)

 この本は、お笑いライターであり過去にはテレビ制作会社で働いていたラリー遠田氏が書いたものである。

全体の感想としては、やはりなるほどと思う。

業界関係者であるお笑いライターならではの視点。内容構成としては、時代の流れに沿って、古くからあるバラエティ番組から分析していく流れだ。

第一章「なぜ、『みなさん』『めちゃイケ』の時代は終わったのか」と第二章「なぜ、フジテレビは低迷しているのか」では、フジテレビと日本テレビなどの比較から、王道バラエティの凋落の理由が納得できる形で述べられている。

日本の景気動向や時代の移り変わりに合わせてということなのだろうが、私としては、めちゃイケは特に好きだったため、無くなったのは残念だし、今でも復活してもらいたいと思っている。

また、めちゃイケのような番組が終わったからといって、それを上回るような番組が出てきているようには思えない。

また、本書全体を通して考えても、フジテレビのバラエティが時代に合わなくなったというのかもしれないが、YouTuberの「東海オンエア」など、王道バラエティを真似したような動画がマスに受けているということからも、フジテレビは王道バラエティを復活させた方がいいのではないかと考えるに至る内容であった。

第三章以降では、現在のトレンドを分析している。第五章「なぜ、視聴者は有吉とマツコから目を離せないのか」では、マツコ・デラックス有吉弘行がなぜ受けているのかの解説が書かれている。

マツコさんや有吉さんは、現在の視聴者目線のままテレビに出ているというのところにとても共感できる。

私としては、マツコさんや有吉さんが売れている理由は、多くの人の本音を割とテレビで言ってくれるからだろうと思う。

この著書の読後感としては、新たな発見と納得感を感じられる。私がただ面白く見ていためちゃイケを、この著書を読み「ドキュメンタリー形式」だと初めて理解したというのも含め、平成のバラエティ番組が好きだった読者にこの著書の一読をおススメする。

私の本はこちら↓