お笑いの分析・考察(by やましたゆうと)

お笑いの技術考。事務所無所属。お問合わせ:yamashitayuto.octopus@gmail.com

【お笑い】M1グランプリ2022決勝 ホメホメ分析

ウエストランド優勝おめでとう‼

今回も、M1グランプリ決勝ホメホメ分析をやっていきます。

今回は、より分析っぽくするために、様々な指数を考えたので、それを当てはめて行こうと思います。

まず、笑いのための前提要素、笑いに+の要素、笑いに-の要素に分けます。この3つの場合に、それぞれ笑いのためのいくつかの条件のような要素があり、それぞれを指数とすることにします。
芸人の言葉や動きにより、それぞれの+の要素を観客が感じた場合に、観客が笑うということであり、(-状態から)+の要素が強かった時ほど観客が大きく笑うとなりますね。

今回考えた指数は、以下のものです。

笑いのための前提の指数(笑いに+) 健康、元気、観客との感覚の一致

笑いに+の指数 興味、理解しやすさ、意外性、安心感、観客の優越感、納得感、共感、感情訴え力、感情揺さぶり力

笑いに-の指数 緊張のまま、不安感、無理解(ネタの伝わらなさ)


これらを随時、興味指数50、理解指数100などと、0~100で表しながら、各芸人の決勝ネタを分析してみようと思います。笑いのための前提の指数要素については、◎○△で表そうと思います。

これらは、笑いが発生するための有名な「緊張の緩和」や「無害な逸脱」といったものとも整合性がとれるものです。

では始めます。


1、 カベポスター「大声大会」

前提の要素 健康〇 元気◎ 観客との感覚の一致〇

やましたゆうとの寸評:
松本さんが言っていたように小気味のいい漫才であり、志らくさんが言っていたようにつかみも面白く、他の審査員が言っていたように、ネタ構成が素晴らしい漫才でした。全体の構成としては、「大声大会」で、好きなもの、欲しいもの、しりとり形式で叫んだという過去を振り返ったという漫才でした。大声大会の出だしとして、小学生が、好きなものを「ポケットモンスター!」と叫んだのは、かわいげもあり、笑いにつながりやすいものでした。そのあとは、なぜかシーチキン、湯布院、ビーフンと「ン」が付く言葉で終わるものであり、最後には、後につながるユリアへの愛の告白もありました。好きなもの、欲しいもの、しりとり形式の中でそれぞれ面白いボケがあり、一貫してユリアへの愛の告白が最後にはあり、構成がとにかく素晴らしい漫才と思える内容でした。
全員でユリアの交際相手へパスをしていたというのはすごい発想でした。

笑いに+の指数

カベポスター+指数

笑いに-の指数

カベポスター-指数
※各数値は私が漫才を見て当てはめた数値です。

「大声大会」で小学生がでてくることや、言葉遊びのネタといったことから、理解しやすさや、安心感の指数が90と高い漫才であったと言えるでしょう。
マイナスの要素はあまりなかったと思われたため、すべて値10とさせていただきました。

以上、カベポスターの考察でした。


2、真空ジェシカ「シルバー人材派遣センター」

前提の要素 健康〇 元気〇 観客との感覚の一致△
(△の理由:お茶の間の高齢者世代はどう思っているかが微妙なため。)

やましたゆうとの寸評:
つかみも面白く、全体としてはブラックジョークが多く、毒舌・ブラックジョークが好きな人はもちろん、現代の世相を皮肉ったという意味では割と万人受けする王道の漫才でした。志らくさんがコメントしていたように、前年の時よりボケにも一貫性があり、技術の向上も感じられ、これからも、どんどんより面白い漫才が作られていく雰囲気を感じました。ネタの中身はやはり、ブラック小ボケの連続で、中でも「AIに仕事を奪われたシルバー人材」「どの人材も目は死んでいない、体はダメみたいに言わないで」といったところは、少し悲しくなるような気もしつつも、世相をよく捉えているというところで、笑える人と笑いにくい人とで二分したような気もします。大オチは、「年金もらいすぎて卑屈になっている腰の悪いお爺さん」と見せかけたところからの年を取り過ぎた恐ろしいお爺さんと、やはり発想が素晴らしく真空ジェシカの技術の高さを感じられました。

笑いに+の指数

真空ジェシカ+指数

笑いに-の指数

真空ジェシカ-指数
※各数値は私が漫才を見て当てはめた数値です。

世相への皮肉やブラックジョークの漫才でもあったので、多少の緊張状態は続いたものと思われます。しかし、そのためにお茶の間の興味を引き付ける効果はあったと思われますし、若い世代の人には、安心感や優越感をもたせる笑いがあったと思われます。デートでシルバー人材センターに行くところや、ラストのオチのところなど、各所に意外性のあるボケが多かったと思います。よって、意外性90他このような数値となりました。

以上、真空ジェシカの考察でした。


3、オズワルド「夢の中」

前提の要素 健康〇 元気〇 観客との感覚の一致〇

やましたゆうとの寸評:
全体を通して、恥を前面に出してきた漫才であったと言えます。ネタのつかみでは、夢の中で「昔から憧れていたアイドルと二人きりとなって好き放題できたらどうする?」と、下ネタを想像させるフレーズを使っています。下ネタはお笑いでは禁断とされることもあるように、だれもが簡単に笑いやすい要素です。そのため、ネタのつかみとして、夢の中であるという設定も踏まえ最適なつかみであったと感じました。その後もネタ全体を通して、恥を前面に出すようなボケが繰り返されました。お笑いでは「無害な逸脱」や「緊張の緩和」が基本ですが、ここでは、演者が観客には無害な恥を表しています。観客には無害な恥のため、観客は安心感や優越感を持てるので、「無害な逸脱」による「緊張の緩和」が起こり観客は笑えるという構造になっていたと言えるでしょう。他のネタや番組でも、芸人が恥をかいている場面で、私たちが笑える場合は多いですね。また、オズワルドでは、伊藤さんの特徴的な「○○だってさ~!」というフレーズは、抑揚もあり、観客が笑いやすいツッコミですね。

笑いに+の指数

オズワルド+指数
笑いに-の指数
オズワルド-指数
お笑いの要因の指数では、やはり「恥」が前面に出ていたことから、観客の安心感や優越感が大きかったと思われ、安心90他このような数値となりました。

以上、オズワルドの考察でした。


4、ロングコートダディ「マラソン世界大会」

前提の要素 健康◎ 元気◎ 観客との感覚の一致〇

やましたゆうとの寸評:
この漫才は、一言でいうと「新しい型の動き漫才×キャラ漫才」でした。
まずこのネタは、漫才の型からは外れていたのでしょうが、新しい型のような作りでありました。まず、動きのある漫才を人は笑いやすいようです。他のエンターテイメントでも、アクションがあるものには人気があるので、動きに興味をそそられるというのは人間本来のものなのでしょう。そういったことからも、今回のネタはマラソンを題材としてあり、様々な「動き」の選手たちがどんどん抜かしていくという構造はとても面白いものであったと言えるのではないでしょうか?私は面白い発想の構造だと思いました。マラソン構造の中で面白いキャラが次々と現れ、最後には「一緒に走ろうな」と言っていた選手が助けてくれるという完ぺきな流れでありました。走り方変→人込みかき分け→何の大会かわかっていない→お味噌汁持ちながらの選手…と一つ一つのキャラも世界大会だけに(?)個性豊かで、めちゃくちゃ面白いものでした。

笑いに+の指数

ロングコートダディ+指数
笑いに-の指数
ロングコートダディ-指数

お笑い要因の指数では、「キャラと動き」が前面に出ていたことから、観客の興味や安心感、意外性が大きかったと思われ、意外90他このような数値となりました。

以上、ロングコートダディの考察でした。


5、さや香「老化」

前提の要素 健康○ 元気◎ 観客との感覚の一致◎

やましたゆうとの寸評:
この漫才は、一言でいうと「王道大阪漫才」でした。
ノリ・テンポの良さ、テンションの高さ、元気さが全面に出ている漫才でした。志らくさんが言っていたように、変化球のネタの後の出番であったため、ウケづらいかとも思いきや、しっかりウケていた当たり技術の高さと場を持っていく力を持っていた証拠でしょう。また、サンド富澤さんが言っていたように、前半はボケとツッコミで、後半二人ともボケのようになっていくのも面白い漫才でした。私は関東出身のため、いまいちはまらない部分もあったのですが、関西の人には王道しゃべくり漫才というのもあり、観客との感覚・テンションの一致が高く、ウケも大きかったのでしょう。何よりも、衰えを感じたという三十代の男が「免許返納」したというツカミが最高のツカミでしたね。

笑いに+の指数

さや香+指数
笑いに-の指数
さや香-指数

全体的にテンションが高かったため、興味や注目を引き付け、感情に訴えかける力強い漫才でありました。そのため、興味、安心、感訴の指数が80となりました。

以上、さや香の考察でした。

6、男性ブランコ「音符運び」

前提の要素 健康○ 元気○ 観客との感覚の一致○

やましたゆうとの寸評:
このネタは一言でいうと、演技派不条理コント漫才です。
二人が演劇のサークルで知り合ったコンビということもあり、演技の上手いコント漫才であり、空想なのにリアルさを感じさせられましたね。「音符運び」という謎の設定で、「ただただ刃先の鋭い音符の運搬に失敗する」という仕掛けのみでここまで笑わせられてしまいました。音符を落としてしまった時の、あの一瞬のボケ(と音符)の切れ味鋭さには、私たち観客も倒されてしまいました。切られた浦井さんの倒れ方、切ってしまった平井さんの慌ててアワアワした表情が最高で、一発の力強いボケを繰り返すだけでネタをやり切ったあたり、二人の演技力が光っていましたね。音符で相手の体を切ってしまっているのに、アワアワしているだけの平井さんになぜかほっこりしてしまうのも、音符運搬の平井さんの不思議な魅力でした。

笑いに+の指数

男性ブランコ+指数

笑いに-の指数

男性ブランコ-指数
音符の運搬に失敗して、相手の身体を切ってしまうという意外性がかなり高かったため、意外性95等、このような数値となりました。

以上、男性ブランコの考察でした。


7、ダイヤモンド「居酒屋にて」

前提の要素 健康○ 元気○ 観客との感覚の一致○

やましたゆうとの寸評:
このネタは一言で言うと、普段言い表されていないことをわざわざ明言した言葉ボケ漫才でした。
本番で失敗してしまったのでしょうか?ネタの構造自体は、斬新さがあり面白いものだったのですが、審査員の富澤さんが言っていたように、つかみの部分で掴みきれなかったのかもしれないですし、テンポ等がズレていたのかもしれません。ボケの野沢さんがもう少し観客の方を見たほうが良かったのかもしれないと私は感じました。きっと決勝で上がっていたのでしょう。他の審査員の塙さんが言っていたように、かかっていたのかもしれません。観客の空気感と漫才のテンポがズレていた用にも見受けられましたね。ネタ自体はやはり面白い構造であったので、本番の緊張する空気感に流されず、観客との一体感でハマっていたらもっとウケていたのでしょう。ダイヤモンドのネタは、他のネタ番組でも構造をいじった面白い漫才があるので、今後により期待したいです!!

笑いに+の指数

ダイヤモンド+指数

笑いに-の指数

ダイヤモンド-指数
笑いに+の指数では、言葉ボケの中に納得感のあるフレーズが多くあったという点から、納得80と最も高く値を付けました。しかしながら、言葉ボケの中に理解しにくかったフレーズもあったと考えられたので、無理解(ネタの伝わらなさ)の数値も少し高めとしました。

以上、ダイヤモンドの考察でした。


8、ヨネダ2000「餅つき」

前提の要素 健康○ 元気◎ 観客との感覚の一致○

やましたゆうとの寸評:
このネタは一言で言うと、音楽と動きと表情によるコント風ネタでした。
お笑いの基本は、言葉や動きによって相手に安心感や優越感を持たせることですが、ヨネダ2000のネタは、観客に安心感や優越感を誘うようなほっこり&ふざけた世界観のネタでしたね。そのため、笑いやすいネタとなっていましたね。また、ネタの最中は、誠さんのいやらしい小技満載でした。ぺったんこをやってもらっていい?と相方に聞いた時、愛さんのお腹をぺたっと触っていたり、ボケのときの表情が、何ともいえない面白表情でありました。ダンスの動きにキレもあり、小技が光っていていやらしかったですね。
ネタは面白かったのですが、91点とウケた割に低い採点者が複数いた理由は、笑えたが、漫才の型からは大きく外れ過ぎていたためと考えられます。また、音楽·リズムに振り切り過ぎたこと、それから、ボケとツッコミというより、誠さんの1人コント状態となっていたというのも厳しい点数をつけられてしまった理由でしょう。
しかしながら、音楽と動きと表情とでとてもウケた面白いネタでした。

笑いに+の指数

ヨネダ2000+指数

笑いに-の指数

ヨネダ2000-指数
お笑いの基本通り、観客が意外性や安心感、優越感を手っ取り早く感じられるネタだったので、また、音楽や動きといった興味も引きやすいネタだったため、興味、意外性、安心感、優越感の項目を高めの値としました。また、音楽・動き・表情と小さい子にもわかりやすく感情も揺さぶりやすかったと思われたため、感情を揺さぶる力の項目も80と高めに付けました。

以上、ヨネダ2000の考察でした。


9、キュウ「全然違うもの」

前提の要素 健康○ 元気○ 観客との感覚の一致○

やましたゆうとの寸評:
このネタは、一言で言うと大喜利システムネタでした。「○○と○○の共通点は何か」を立ち位置右の清水さんが答えていくというシステムのネタでしたね。
良かった点としては、二人の表情、ピロさんの麻呂のような表情も良かったですし、清水さんのわかりやすく移り変わりが大きい表情も、ネタや感情が伝わりやすくとても良かったです。
少し残念であった点は、ネタのシステム自体は、ぴろさんのお題に対し清水さんが「○○でしょう」と答えるという、ミルクボーイの亜種のような方式で、ある意味斬新でした。しかしながら、審査員の富澤さんが言っていたように「○○でしょう」となった瞬間に笑いというよりも、観客が関心するとなってしまう構造だったのが少し残念でした。塙さんが言いていたように、「どちらも○○でしょう」に頼りすぎたという面もあるように見受けられました。このシステムならば、もう少しネタに展開やひねり、それから身体の動きがあってもよかったのかもしれません。

笑いに+の指数

キュウ+指数

笑いに-の指数

キュウ-指数
二人の表情がよかったため、安心感の項目を90と高い値を付けました。他は、いまいち会場の空気感を掴めていなかったような気もしたので、上記のような値となりました。

以上、キュウの考察でした。


10、ウエストランド「あるなしクイズ」

前提の要素 健康○ 元気◎ 観客との感覚の一致○

やましたゆうとの寸評:
このネタは、一言で言うと、あるなしクイズを装った本音吐露漫才でした。
 いや~、優勝おめでとうございます!それから、お笑いの分析をするファンをディスられてしまいました。私のこの分析・考察も「止めてくれ~」と言われてしまうものなのでしょう。
 私としては、お笑いを分析するのは面白いです。分析・考察が広がることにより、視聴者側の目も肥えて、作り手側がより面白いネタを作ろうという動機にもなると思います。また、分析してもなお、「その方向性の発想はなかなか思いつかないな!」とお笑いネタに驚かされることも何度となくあります。また、分析するからこそ、単純な下ネタや、わかっていても笑ってしまうような単純なボケをとても面白く感じられるというのもあります。このように、分析するのも面白いんです。
 私の言い訳のようにもなってしまいましたが、今回のウエストランドのネタのように、分析を逆手に取る笑いの手法はたくさんあると思いますし、私はこれからも分析を止めるつもりはありません。
 スポーツ観戦と同じで、分析してもそれを超えるような面白いものはありますし、分析されてネタの仕組みをバラされても、面白いネタをどんどん披露していってもらいたいですね。

笑いに+の指数

ウエストランド+指数

笑いに-の指数

ウエストランド-指数

ウエストランドのネタの分析がまだでした(汗)。ウエストランドのこのネタは、ネタ前の紹介に「小市民怒涛の叫び」とあったように、本音吐露の漫才でした。観客が共感できるような本音でしたし、そのような本音を大きな声で言っていることは観客の安心感や優越感に直接繋がるため、皆が頷いて爆笑できるネタでした。「よく言ってくれた!」という感想を持つような、感情を揺さぶる力も大きいネタだったと言えますね。
そのため、上記の笑いに+の指数のグラフのようにどの値もとても高い値を付けました。

以上、ウエストランドの考察でした。



※決勝の決勝は割愛とさせていただきます。

いや~、今年も面白いM1でした。
優勝したウエストランドには分析をディスられてしまいましたが、これからも面白いネタがどんどん生まれてくるよう、応援しています!

以上、M-1グランプリ2022決勝ホメホメ総評でした。